比較的新しい学問とされる社会学の中でも、私が専攻する地域社会学は特に若い分野です。たとえば地域社会学会は、都市社会学と農村社会学に起源をもち、高度経済成長期に地域社会の問題にアプローチするために組織されました。慶應義塾大学では、都市社会学の奥井復太郎・矢崎武夫、農村社会学の有賀喜左衛門らこれらの分野の先駆者たちが教鞭をとりました。
地域社会学のアプローチや対象にはさまざまなものがありますが、私の研究は主に次の4点にまとめられます。(1)地域社会の単位をめぐる研究、(2)地域社会を単位における共生をめぐる研究、(3)地域社会に迫る方法論をめぐる研究、(4)地域社会に研究を開くための実践と研究です。
現代社会は移動が多く、生まれ育った家で家業を継ぐのはもはやめずらしいことかもしれません。それでも、多くの人が故郷をもっていたり、そうでなくても暮らしている地域のうえで社会的交流を営んでいます。空間的範域に社会的交流が蓄積されると地域社会になるわけですが、地域社会は実に多様で重層的です。そこで近代化以降の絵地図類を用いた空間的範域からのアプローチと、数百年続く「講」などの社会的交流からのアプローチを組み合わせて、地域社会の総合的な理解に挑戦しています。
地域社会は空間的に近接しているだけなので、価値観の異なる人たちが含まれます。それでも先人たちは対立が先鋭化しないように何らかの工夫を社会に導入してきたはずです。そこで、私は伝統的集落の民俗行事やニュータウンなどの住民自治が、価値観の対立を乗り越える「共生社会のためのレパートリー」として機能しているという着想をもって、民俗・自治についての資料を収集して分析しています。有賀が、伝統からこそ創造性が生まれると論じた姿勢を重視しています。
シカゴ学派都市社会学が初期から多様な調査方法を取り入れる「トライアンギュレーション」を発展させてきたのと同じように、私も地域社会に迫れる方法であれば貪欲に自分の研究に採り入れます。地理情報システム、テキストマイニングなどコンピュータの活用が欠かせないものもあります。ただ、方法の基盤にあるのはフィールドワークと、生活調査です。また、近年は質的多量データをどのように質を失わずに分析するかという観点から混合研究法についても検討を重ねています。
研究を社会に開き、地域社会と共に研究したり成果を活用できるように、アクションリサーチやワークショップも積極的に取り入れています。また、パブリック・ヒューマニティーズやパブリック・ヒストリーといった観点から、人文社会科学の成果を、いかに社会と共に作っていくかということにも関心を強く持って研究しています。