営利法人と非営利法人の区別

法律学科教授

松元 暢子


営利法人と非営利法人の違い

 私は会社法や非営利法人法を専門として勉強しています。
 営利法人である株式会社と非営利法人との違いは何でしょうか。株式会社は、事業活動を行って利益を上げ、上がった利益を株主に配当として分配します。これに対して、非営利法人では、事業活動を行って利益を上げることもありますが、利益を関係者に分配することは禁止されています。このことを、「分配禁止規制(non-distribution constraint)」といいます。
 株式会社は、株主と呼ばれる出資者から資金を集めることで大規模な事業活動を行うことが可能になります。株主が出資を行う目的は、配当や株価の上昇等を通じて経済的利益を受けることです。つまり、株式会社の仕組みにとっては、利益を株主に分配できるということが不可欠です。そして、株式会社が多くの出資を集めるためには、たくさんの利益を上げて、その利益を株主に還元することが重要になります。
 では、非営利法人で分配が禁止されているのはなぜでしょうか。子どもに無料で栄養のある食事を提供している子ども食堂が非営利法人の仕組みを採用していたとします。分配禁止規制があるため、この法人は、手元にお金があるとしてもそれを関係者に分配することはできません(従業員に対して適正な金額の給料を支払うことは妨げられません)。そのため、この子ども食堂の運営をサポートするために寄付をしようと考えている人がいた場合、資金が関係者に分配されることが制度上禁止されているため、自分が寄付した資金が子ども食堂の運営のために使われる可能性が高くなり、安心して寄付を行うことができることになります。その結果、より多くの寄付を集めることができるかもしれません。この点で、寄付金を受け入れて公益目的のために活動する場合には、非営利法人の仕組みを利用することにメリットがあります(詳細は、拙著『非営利法人の役員の信認義務』(商事法務、2014年)。

営利法人による公益目的の支出をどのように考えるか

 このように、営利法人である株式会社と非営利法人との区別は一見明確に見えます。しかし、最近では、会社の社会的責任やSDGsといった言葉に表れるように、株式会社も株主の利益のためだけでなく、社会や環境といった公益のために行動すべきだという考え方が強くなってきました。ここで、難しい問題が出てきます。株式会社が、株主に分配することもできる資金を、株主には分配せずに、社会や環境といった公益のために支出することは望ましいことでしょうか。
 この問題はかなりの難問であり、私自身も最終的な答えにはたどり着いていませんが、いくつかの視点をご紹介しておきましょう。第一に、社会や環境のために支出をするかどうかを株式会社に判断させるべきか否かという視点です。つまり、寄付を行うか否か、行うとして具体的にどういう相手に寄付をするかは、株式会社が決めるのではなく、株式会社から配当を受け取った株主が判断すべきなのではないか、という問題です。この点については、株式会社はビジネスを行う過程で社会においてどのような分野で特に支援が求められているかを知ることができる立場にあるため、株式会社が支出の判断を行うことによって、より有効的で効率的な資金提供ができるという考え方もあるかもしれません。
 第二に、配当として株主に支払うことも可能である資金を公益目的に支出してしまうと、その分、株主に対する配当が減ることになるため、そのような状況では人々が株式会社に出資しようという意欲を削ぐことになってしまうのではないかという視点があります。他方で、株主の中には、配当が低かったとしても、社会のためになる支出をしているような会社の株式を買いたいと希望している株主もいるかもしれません。そうだとすると、公益目的に資金を拠出することを予定している会社とそうでない会社とを区別できるような仕組みがあればよいのでしょうか。
 ここで紹介した問題に関連して、現在進行形で様々な議論や制度設計、工夫が行われています。米国の経営者団体であるBusiness Roundtableが2019年に公表したステートメントは、会社は第一に株主に仕えるために存在するという従来からの見解を盛り込まず、むしろ、「全てのステークホルダー〔注:会社関係者のこと。環境や社会、従業員や取引先などを広く含む。〕に対するコミットメント」に言及したことで、大きな注目を集めました。投資の分野では、環境や社会に配慮した会社の株式を選別して購入する「ESG(Environment, Social, Governance)投資」も広がっています。諸外国では、株式会社でありながら公益目的を追求することも会社の目的として明示する「社会的企業(social enterprise)」についての制度や実例が登場しています(各国の社会的企業に関する法制度をまとめた文献として、The International Handbook of Social Enterprise Law (Springer, 2023)。筆者も日本についての章を執筆しています)。
 こうした問題に対して、どのような制度やルールを整備すべきか(または整備すべきでないか)を考えていくことも、法学の重要な役割の一つです。一緒に勉強してみませんか。

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