2013年10月10日
日時:2013年10月10日(木)3限(午後1時~午後2時30分)
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス南校舎435教室
講義内容:韓国の国民参与裁判
韓国では,2008年1月から,,アメリカの陪審制とも,ドイツの参審制とも,また日本の裁判員制度とも異なる国民参与裁判(陪審裁判)が行われているが,施行後5年が経過し,現在,制度の見直しが行われている。
講義では,まず韓国の国民参与裁判の特徴とこれまでの運用状況が紹介され,予定されている改正の内容について解説が行われた。主な改正内容は,次の通りである。
・日本と異なり対象事件のうち被告人が国民参与裁判を希望(申請)した場合にのみ実施される制度を改め,被告人が希望しない場合でも,検察官の申請により,裁判所が司法の民主的正当性と透明性を高めるために必要と認めた場合にも国民参与裁判を実施することができるようにする。
・従来,陪審の評決には勧告的効力しかなく,裁判所が陪審の評決と異なる判決を行うことも可能であったが(但し,一致率は92%),裁判所は事実認定につき陪審の意見を尊重しなければならないとして,一定の場合にのみ評決と異なる判決を認めることとする。
・評決を行うにあたり,1回目の評議では全員一致とし,2回目の評議では単純多数決としていたのを,2回目の評議を4分の3以上の絶対多数決とする。その結果,評決不成立の場合が多くなる可能性があり,その場合は,評決のないまま裁判所が判決を行うが,陪審員の意見を参考にすることができることとする。
・陪審の構成のうち5人制を廃止する。陪審員の年齢要件を満20歳から満19歳に引き下げる。
質疑では,韓国の憲法上,「裁判官による裁判」を受ける権利が保障されていることとの関係で,かつて陪審制度を違憲とする見解も見られたが,今回の改正にあたってどのような議論が展開されているのかや,被告人による申請主義を一部見直すことがどのような趣旨によるのかなどの質問が出され,趙均錫教授から説明がなされた。
[講演者]趙 均錫 教授
講演者の趙均錫教授は,長く検察官として奉職された後,弁護士に転じられ,韓国で5年前にロースクール制度が導入されてからは,梨花女子大学ロースクールの教授(刑法,刑事訴訟法)として教鞭をとられている。
検察官時代,慶應義塾大学法学部に訪問研究員として1年間留学されたほか,駐日韓国大使館勤務(参事官)の折には,法学研究科の非常勤講師として講義を担当された経験をもつ。
韓国において政府の審議会委員などを歴任され,韓国の司法制度改革や被害者支援施策に造詣が深い。韓国の被害者支援制度や全国に設置されている犯罪被害者支援センターは,趙均錫教授がその基礎を作ったものである。また,梨花女子大学ロースクールに,世界でも珍しい修復的司法センターを設立され,毎年,国際セミナーを実施している。
(法学部 太田達也)