研究科委員長からのメッセージ

 戦後の日本は,敗戦の荒廃から見事に立ち上がり,急速に先進国の仲間入りを果たしました。その間,法律,政治,社会,経済等全般にわたって,諸外国から多くのことを吸収しましたが,戦後日本のダイナミックな発展にとって法律学や政治学が果たした役割にも大きなものがありました。
 慶應義塾大学大学院法学研究科は,日本がまだ占領下にある昭和26(1951)年の新しい学制による大学院設立に伴って発足し,戦後日本の復興と学問の発展に重要な貢献をしてきたと自負しています。学界,法曹界,政界,官界,経済界,非営利組織等に,文字通り日本をリードし,世界で活躍する人材を数多く輩出してきました。

 しかし今日,世界とそのなかに生きる日本は,根本的な変動の時代のさなかにあります。現代社会は複雑化し,戦後当たり前だと思われてきたことの多くも,変革の波からのがれることはできなくなっています。先進国の多くが,法律や政治を含めた国内制度の疲労を経験している反面,新興の経済成長国が自らの立場と主張を強めつつあります。また発展途上国のなかには,国づくりをようやく本格的に進められるようになった国もまだ数多くあります。かつて日本が先進諸国から学問を導入したことの目的が,もっぱら日本の発展にあったのだとすれば,今日は,日本が自らの変革を正しく導くと同時に,諸外国の力になり,諸外国との協力の下に世界の発展に寄与する時代だといえるでしょう。
 こうした変革の時代にあって,私たち法学研究科も,全く新しい課題に直面しています。従来の基礎的研究を継承し,ますます発展させなければならないことは,いうまでもありません。しかし,今後私たちが取り組む学問の真価が問われるのは,変動する現代社会のなかで,今後形づくられる社会のあり方に実質的な影響を与えることができるかどうかにあると考えています。

 そこで,法学研究科は,民事法学,公法学,政治学の研究を通して,日本と世界の平和と安定,そして社会における正義と繁栄の実現のために貢献したいと願っています。そのためには,明治維新以来の学問の伝統であった諸外国の学問体系の吸収という次元を乗り越えて,日本発の学問を発展させることはもちろん,日本と諸外国の研究との真の融合を図っていく必要があります。法学研究科が,現代社会の諸問題に直結した学問の発展を目指し,同時に国際交流に力を入れていることの真意は,まさにそこにあります。

 法学研究科に学ぶみなさんは,時代の先端を行こうとする私たち教員の指導下で学問の世界に入るわけですが,同時に学問の社会的使命を共有する同伴者でもあります。そのために私たち法学研究科の教員は,幅広い教養とそれと有機的に結びつく高度な専門的能力を身につけた,個性豊かで自立的な人材を育成する教育を心掛けています。
 研究者を目指す者にとって,日本社会の少子化が進むにつれて,大学で教鞭をとるという道は一般的にはますます狭き門になっていくものと思われますが,みなさんの諸先輩のなかでも立派な研究成果をおさめた人は,例外なく一流の研究職を射止めています。それ以上に,変動する社会には真の学問的貢献が不可欠であり,そうした本質的意味で,質の高い研究者の需要はむしろ高まっていくはずです。そのことは,法学研究科が専門とする民事法学,公法学,政治学の分野でこそ,一層顕著であると確信します。

 法学研究科では,まず,師や友との恵まれた出会いと自由な対話を通して学び,考え,自分の生き方を見据えて,知的人格の形成に努めてほしいと思います。私たち教員スタッフも,創造性を触発するような出会いを待ち望んでいます。そして,ひとりでも多く,変化する世界と日本の望ましい未来に貢献できる人材が育つことを願っています。

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