ヴォルフガング・ティールゼ
ドイツ連邦議会副議長による講演会
2010年12月6日(月)にドイツ連邦議会のヴォルフガング・ティールゼ(Wolfgang Thierse)副議長が来塾され,三田キャンパス北館ホールにおいて「ドイツ再統一の20年—回顧と総括」という演題で講演会が開催されました。

ティールゼ氏は1989年~90年の東ドイツの民主化運動の中心人物の1人であり,現在のドイツでも最も重要な政治家の1人です。東西ドイツ統一後の1998年~2005年には東部地域出身者として初のドイツ連邦議会議長,2005年以降は副議長を務めておられます。
「東西ドイツの統一は天から降ってきた僥倖ではなく,勇気ある市民の運動の賜物であったが,その他にも国際政治の中での多くの好条件や旧西ドイツの人々の連帯協力に感謝しなければならない」「生産性や賃金などの平均値を西部地域と比較すると,その格差はまだ認められるものの,東部でも振興拠点となっているいくつかの都市に注目すれば,西に遜色のない水準まで向上している」「ソーラーパネルの生産などのように,東部地域が世界的な水準に達している分野も存在する」など,20年前の歴史的大事件を振り返るとともに,その後の東西の融和と,経済振興の状況についての見解が語られました。また「私の父はヒットラーの政権奪取の翌日に成人を迎え,東ドイツで行われた最初で最後の自由で秘密な人民議会選挙の1週間前にこの世を去りました,ですから父はその一生のうちに自由な選挙に参加する経験をしたことは1度たりともなかったのです」という言葉には,氏の社会民主主義者としての政治活動の背景を見ることができました。

講演の後には,聴衆からの質問をまじえ,予定を20分もオーバーして熱のこもったディスカッションが続きました。日本の政治的無関心の状況を引き合いに出しての学生の質問に対し,「民主主義はひとりひとりの参加がなければ死んでしまいます,民主主義の後継者たる若者が参加しようとしないのなら,おしりを蹴飛ばしてでも参加を促さねばならないのです」というように,「民主主義が死んでいた」時代を経験してきたティールゼ氏だからこそ,その言葉の持つ説得力には,他の追随を許さないものがありました。

(撮影:石戸晋)