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2020年度 新入生、在校生諸君に

“始まり”の日に―法学部にようこそ


法学部長 岩谷 十郎


2020年4月1日、桜舞う三田キャンパスから、法学部生諸君に挨拶を送ります。
なによりも、本日から法学部生となられる皆さん、ご入学おめでとう。今日は本来であれば日吉のキャンパスで諸君をお迎えするはずでした。 日吉の丘は、10学部を擁しそれを6キャンパスで展開する慶應義塾大学の中にあっては一つのキャンパスに過ぎませんが、すべての学部の学生が入学の時に集い再び卒業の時に集まる、記念の場所なのです。今年は残念ながら皆が一同に会する形ではそのことをお祝いできませんが、私たち法学部教員は、皆さんを心から歓迎致します。
さて、コロナウィルス禍の中、いろいろな不安を抱えながら新学年度を迎えた諸君も多いと思います。「独立自尊」とは慶應の建学の精神ですが、福澤先生は、独立自尊の人とは「心身の独立を全うし自から其の身を尊重して人たるの品位を卑しめざる者」だと言っています。誰しもが身体を大切にして健康を保ち、「自労自活」、つまり自分で働いて自分で食べ、天寿を全うすること、これが基本だと言うのです。
もっとも「独立」とは、経済的な自立を目標とすることかと早合点する人もいるかもしれませんが、実はそればかりではありません。自らの身体的、物理的な土台をしっかりと作ることの大切さが述べられているのです。親元から離れ一人住まいを始めた新入生も沢山いると思いますが、献立を考え食材を整え自ら食すという自分の健康に配慮し自分を養うという生活が、独立の精神を宿す器となるのです。
そして独立(自尊)の精神とは、自らの進む方向を他に依頼せずに自らの思慮判断で決められる人間像と理解されています。慶應義塾の建学の精神とは、今から160年以上も前、封建時代末期の創設時から今日に至るまで堅持されているモットー、つまり慶應義塾の教育が目的とする人間像であり、これは法学部においても変わることはありません。
ただ、この独立自尊の人間像とは、困ったときにも、とことん自分の力を信じて自分でやり抜くことを理想とする生き方ではありません。独立自尊とは決して孤立無援と同じではないのです。むしろその正反対の考え方なのです。必要に応じて、他者の力や援助を潔くお願いする、あるいは自らも他者から依頼されれば快くそれに応じる、という生き方なのです。そもそも自分というのは他者から見た他者なのですから、独立自尊とは、他者同士が尊重し合って共存してゆくための、大事な原理でもあるのです。
以上申し上げてきたような「独立自尊」の人に皆さんがなることを私たちは大いに応援しています。慶應義塾の「始まり」の精神は、今日法学部に学ぶ諸君の「始まり」の精神でもあって欲しいと私は思っているのです。
諸君の健闘を祈ります。

「人々内に自から顧て、我一身も猶他人の如く、心力を労して世に存することを得るものと思ふ可し」(『西洋事情外編・巻之一』)