インタビュー

1年生からの法律学

法律学科 憲法(総論・人権)小山剛(こやま・ごう) 先生


まずは「憲法」「民法」「刑法」から

法律学科 憲法(総論・人権)小山剛(こやま・ごう) 先生

日吉で学ぶ法律科目

日本にいくつの法律があるか、知っていますか。2000弱だとされています。政令、省令、規則などを加えると、その数は8000を超えます。もちろん、そのすべてを学ぶわけではありません。1年次の最初に学ぶのは、憲法、民法、刑法です。法律(学)を体系的に学ぶうえで、基本となる法典です。民法がわからないと「契約」や「不法行為」といった社会の基本的な仕組みを理解しないままに法学部の4年間を過ごすことになりますし、さらには会社法、経済法といった花形の分野も珍紛漢紛で終わってしまいます。また、刑罰は、「刑法」という名の法律の中でだけ定められているのではなく、道路交通法、独占禁止法、金融商品取引法や青少年保護育成条例などでも定められています。これらの法令を理解するには刑法の知識が前提となります。



憲法とは

私が担当するのは、憲法です。近代憲法には、人権保障と権力分立(統治)という二つの柱があります。1年次は人権、2年次は統治を中心に学びます。国家が侵してはならない自由を保障し、独裁者が登場しないように権力を分立する最高法規であるため、「憲法は国家権力を縛る法である」と言われます。
法律学で重要なのは、事例を通して具体的に考えることです。ただし、事例ばかりだと「木を見て森を見ず」に陥ります。講義では、具体的事例と一般的な理論の間の視線の往復を心がけています。また、大教室の講義は一方通行になりがちですが、まだ裁判になっていない最新の事件や、最高裁判決が近日中に予定されている事件を題材にした事例問題を取り上げ、学生にディベートをさせることもあります。とくに人権は、判例・裁判例も数多くあり、テーマ的にも、ヘイトスピーチ、夫婦別姓など、現在進行形の話題が含まれています。興味をもって学べるでしょう。
さて、民法は内科、刑法は外科にたとえられることがありますが、憲法は何にたとえられると思いますか。答えは自分で探してください。

法律学科 債権各論 田髙寛貴(ただか・ひろたか) 先生


法律学科 債権各論 田髙寛貴(ただか・ひろたか) 先生

スタートは憲法・民法・刑法から

入学後すぐの1年次から学ぶ法律学の専門科目は、さまざまな法律の基盤をなす憲法・民法・刑法からスタートします。私が担当する「債権各論」は、民法の一領域をなすものです。車に轢かれ大怪我をした、自分を誹謗中傷する記事を書かれた、業者が注文どおりに建物を建てなかった、夫の浮気で結婚生活が破綻した等々、損害賠償請求というのは我々がもっとも身近に接する法律問題といえるでしょう。そのような、社会のなかに見いだされるさまざまな法的義務や損害賠償請求の内容を扱っていくのが、債権各論です。



具体的事例と対話から学ぶ

民法は、数千年にわたり人類が築きあげてきた、紛争解決のための叡智の結晶です。民法学は、様々な紛争に直面し、それを解決するための道具を研ぎ澄ませることに努めてきました。この授業では、民法の諸制度、諸理論が実際にどう紛争解決に資するものかを知ってもらうため、多くの事例を取り上げ、具体的に問題を検討しています。また、法律学で不可欠となる議論は、1年次から開講される少人数科目の「法学演習」等で本格的に行われますが、この授業も、受講生の皆さんの意見を聞き、対話をしながら展開しています。



法を知ることは社会を知ること

人が集まってみんなで何かをしようというとき、そこには必ずルールが必要となります。人間が集団生活を営んでいく、社会を構成していくときに必要となるルール、それを国のレベルで考えたものが「法」です。法は社会のルールですから、ルールを知ることは社会を知ることを意味します。法律学を通じて、社会のしくみや人間関係のあり方を分析する視角を体得し、また、客観的多角的に冷静な目で物事を見通し判断する力、さまざまな立場の人を説得できる論理的な思考を養ってもらえたらと思っています。

1年生からの政治学

政治学科 政治学基礎 岡山裕(おかやま・ひろし) 先生


世界の「決まり方」を考えよう

政治学科 政治学基礎 岡山裕(おかやま・ひろし) 先生

「決まり方」の学としての政治学

皆さんの多くは、「選挙や外交が政治に含まれるのはわかるけど、それを分析する政治学って何をするの?」と思っているのではないでしょうか。政治学の目標は理想の政治の発見だ、と言われたりもしますが、それはやや誤解です。人によって好みが違う以上、全員にとって理想的な政治を構想するのは無理があるからです。
では、実際の政治学は何をするのでしょう?実は、この「好みの違い」がポイントです。政治学では、好みも目標も異なる複数の人間が、共通の事柄について決めるとき(集合的決定といいます)に何が起きるのか、物事の「決まり方」に注目してその説明を試みます。状況によってどんな決め方(ルール)が採用されるのか、どうしたら皆が合意した決め方が存続するのか、はたまたケンカや戦争(これも決まり方の一つです)が始まってしまうのか、といった問題を考えます。



集合的決定の世界のひろがり

決定の仕方というと、狭い対象だと思うかもしれません。
しかし、ここでの決定は、例えば選挙で有権者が投票に行くかどうか、議会で法律をどう作るかから、人々が革命に立ち上がるかどうか、対立する国と戦争を始めるかどうかまで多岐にわたり、人の生死や世界の命運を左右します。また決め方の違いも、甚大な影響を及ぼします。私の研究するアメリカ合衆国では、2016年の選挙で、ドナルド・トランプが一般投票での得票では負けたものの大統領に当選しました。それは、単純多数決でない選挙制度が採用されているからです。
 分野だけでなく、地域によっても集合的決定のあり方は異なります。また望ましい決め方に関する考え方も、徳を持つエリートによる支配から多数決へ、というように長期的に変化してきました。法学部政治学科には、古今東西の「決まり方」を考えるプロが揃っています。政治学の学習は、学問全体を俯瞰する「政治学基礎」に始まり、各分野の基礎科目、そして専門科目(系列科目)へと進んでいきます。「理想の政治」は無理かもしれませんが、皆が「納得のいく政治」位はあるかもしれません。一緒に探しに行きませんか。

政治学科 政治学基礎 河野武司(こうの・たけし)先生


政治学科 政治学基礎 河野武司(こうの・たけし)先生

出発点としての政治学基礎

政治学に関して言うと、日本において最も多くの専任教員と科目とを擁しているのが、慶應義塾の政治学科です。専任教員の数は30人を超えます。政治学に直接関連する科目は200以上になりますが、少人数による30余りの演習科目と20余りの講義科目が1年生から学べる専門科目として日吉キャンパスで開講されています。政治学科では政治学を、政治思想、政治・社会理論、日本政治、地域研究・比較政治、国際政治の5つの分野に分けています。これらの分野のいずれかを自身の専門として3年次以降に三田キャンパスでより深く学んでいくことになります。どの分野を専門とするにしても、そのための出発点となるのが、必修科目として1年生に対して開講されている「政治学基礎」です。



政治における基礎的概念・理論・現実

政治学基礎では、政治学を専門的に学んでいく上で必要となる基礎的な概念や理論を思想史上の展開や現実の政治を例としながら説明します。政治とは何か、政治学とはどのような学問かということはもちろんのこと、理想の政治を実現していくための前提となる正義や平和、支配の正当性などの概念、民主政治を支える三権分立や選挙制度をはじめとする様々な政治制度、さらには国内や国際的に展開される現実政治に関する様々な理論などです。



政治学の目的

古代ギリシアの都市国家アテナイにおいて、ポリスを運営する技術としての政治を研究対象とする学問として体系化された政治学という学問は、最も古くから存在する社会科学です。その長い歴史の中で常に問題としてきたものの一つが、理想の政治をいかに実現し、よりよく作動させていくかということです。そのことを自分自身の問題として考え、より望ましい政治社会の実現に自発的に貢献できる良き市民を育成することが慶應の政治学の大きな目的です。

1・2年生の授業 外国語

言葉はあらゆる法に通じる規範

フランス語 大出敦(おおで・あつし)先生


フランス語 大出敦(おおで・あつし)先生

法学部で外国語を学ぶとは?

みなさんは漠然と大学に入学すると1,2年次は外国語学習が必修だと思っているでしょう。もちろんそれは間違いではなく、法学部では英独仏中西露朝の7言語の中から2言語を選択し学習します。多くの学生は英語ともう一つの言語を選択しますが、中には英語以外の言語を二つ選択する人もいます。でも改めて考えてみましょう。なぜ法学部で外国語を学習するのでしょうか。グローバル化に向けてでしょうか。海外旅行のためでしょうか。就職に有利になるためでしょうか。



法学部的感性を養う語学

言語はそれを用いる人の思考や行動を規定します。例えば「迎えに行く」という表現は、英語ではpick upですね。私が教えているフランス語ではchercherという動詞を使うのが普通です。pick upは日本語に直訳すると、「拾い上げる」「つまみ上げる」です。chercherは「探す」です。迎えに行くという行為を英語は拾い上げる行為で表現し、フランス語は探すという行為で表現しています。行為自体は同じなのにです。つまり同じ行為でも言語によって表現の仕方が異なるのです。何だ、当たり前じゃないかというかもしれませんが、この言語による物事の捉え方の違いが、自分たちと異なる考え方を生み出し、行動を規定しているのです。さらにいえば、この異質なものである言語がその国独特の法体系や政治思想の規範そのものなのです。大学での外国語学習は、結果として留学や就職に役立つかもしれませんが、実は異質な考え方を体験することで、自分たちとは異なる法体系や政治思想、社会、文化を理解する基礎学習なのです。一見したところ、専門の授業と直結しているように見えませんが、言語の習得は法学部的感性を養うものなのです。
そのため法学部では、外国語を深く学びたいと希望する学生のための週4回のインテンシヴ・コースなどみなさんのニーズに応じたさまざまなレベルのクラスを用意しています。また各言語と連動した地域文化論という特色ある授業もあります。さあ、では4月から一緒に法学部的感性を育みましょう。

自己を形成する外国語学習を

ロシア語 熊野谷葉子(くまのや・ようこ) 先生


ロシア語 熊野谷葉子(くまのや・ようこ) 先生

法学部は2種類の外国語を学ぶ

ロシア語で「教育」は≪образование(オブラザヴァーニエ)≫と言い、「形成」と同じ言葉です。教育とは人間を形成する過程である、というこの考え方からすると、高校までのオブラザヴァーニエは教え育んでもらった第一段階、大学は自らを形成する第二段階と言えるでしょう。自分で専攻を選び、授業を選んで自己をかたちづくる、大学はそういう場です。
ところがそこに、必修科目としての外国語が控えています。法学部では2種の外国語を少なくとも週2回ずつ、2年間学びます。



語学学習は体験そのものを楽しんで

ですが、正直なところこの時間数で初習外国語の優れた使い手になることは困難ですし、単位を取り終えて勉強をやめれば文法も単語もたちまち忘れてしまうもの。まして将来使う可能性の低そうな外国語(たとえばロシア語??)の学習が、いったい何の役に立つのでしょう。
と、思いながらぼんやり授業に出ていると、授業の時間は無駄に過ぎ、宿題とテスト勉強には余計に時間がかかります。それよりも、「Жって変な字!」「格変化が6つ?ありえない...」「ボルシチってそれで赤いのか―!」といちいち大騒ぎしながら(教室で騒げという意味ではなく)、語学学習の体験そのものを楽しんでください。単語は後で忘れてしまっても、外国語とその文化に触れた記憶は貴重な財産ですし、社交辞令が言える、辞書があれば読み書きできる、というのは素晴らしい能力です。もちろん当該言語圏の文化や考え方を知って視野を拡げるのが重要なのは、言うまでもありません。
法学部にはさらに、ひとつの語学を週4回学び、4年生まで継続して鍛えられるインテンシブコースもあります。地域研究を専門にする人、外交や貿易のかけはしになりたい人のために、基礎となる語学面をサポートし続けるのも、私たち教員の仕事です。

1・2年生の授業 自然科学

知的好奇心で新しい世界を開こう

自然科学 物理 杉本憲彦(すぎもと・のりひこ) 先生


自然科学 物理 杉本憲彦(すぎもと・のりひこ) 先生

自然の「なぜ」を考え、実証する

自然の「なぜ」に挑む学問、それが自然科学です。人類はその歴史のなかで、現在の宇宙や地球の状態、それを支配する物理法則など、その理解を少しずつ進めてきました。その結果、地球にいながら宇宙の果てやその始まりについての知識を持ち、未来の天気や気候まで予測できるようになりました。この自然科学を支えているのが実証です。自然科学は実証されて初めて成り立つ学問です。仮説をたて、それを実験や観測から実証することで、初めて確定した事実として認められます。実は、法学部の論証の基礎になっているのも、この実証の過程なのです。法学部の物理学、化学、生物学といった実験科目では、まさにこの実証を体験することができます。



広い視点と自然を理解する楽しさを

なぜ法学部に入ってまで、自然科学をするの?そう思う方も多いかもしれません。しかし、法学部に入ったからこそ、自然科学をもう一度学んで欲しいのです。自然科学は万能ではないし、使い方によって善にも悪にもなります。自然科学がもたらした技術は、私たちに物質的豊かさを提供した一方で、生活を窮屈にし、地球を滅ぼそうともしています。地球環境問題やエネルギー問題など、自然科学と文系学問の知識を総動員しなければ解決できない問題は山積みです。地球の未来を考え、持続的な社会を目指すためにも、法学部の皆さんにこそ自然科学の知識と思考法を身につけて欲しいと思います。法学部の自然科学研究会では、このような総合的な問題について、自然科学や文系学問の多様な視点から白熱した議論を行っています。
これまでの理科や数学への苦手意識を取り除き、自然の面白さを伝えるのが、私たち自然科学の教員の腕の見せ所です。自然の「なぜ」は、数式や用語のみからではなく、言葉や感覚からも解き明かせます。何より、自然を理解することは楽しいことなのです。大学の勉強は受け身では得られません。日吉の2年間、様々な分野の知的好奇心を思いっきり満たしてください。新しい世界が開けるはずです。

科学する力で思考を磨く

化学 志村 正(しむら・ただし)先生


化学 志村 正(しむら・ただし)先生

自然科学の重要性

慶應義塾という名が生まれた1868年、福澤諭吉先生は、『訓蒙 窮理図解(きんもう きゅうりずかい)』という日本で最初の科学入門書を著しました。先生は、日本人のほとんどが科学的な思考力をもっていないこと、つまり日本固有の文明そのものが窮理学(物理学)の原則を欠いていることに危機感を抱き、この本をはじめ、再三にわたって自然科学の重要性を説いてきました。しかし残念ながら、150年経った今でも、我が国の理科離れ傾向に変わりはありません。その一因として、高校までの理科や数学の授業では、理論が組み立てられていく途中経過や根本となる原理にまで深く踏み込んだ教育をする時間がなく、自然科学の面白さを十分に伝えられていないことがあげられます。



法学部の自然科学

法律学や政治学が成立してきた過程では、自然科学的な思考法が大きな役割を果たしています。法学部でこれらの社会科学を専攻することになる皆さんにとって、自然科学の細かい知識を得ることは、さほど重要ではないかも知れません。むしろ物事を疑ってかかり、論理的に考察して、その理由を理解したうえで原理や法則を導いていくといった自然科学的な思考力を身につけることが大切です。法学部では、講義と実験を半分ずつ行う物理学、化学、生物学といった実験科目、心理学、数学、統計学、特論や総合講座など多くの科目を履修できるように用意しています。自然科学は、決して公式や法則の暗記科目ではありません。大学で本来の自然科学を存分に楽しみ、科学する力と心を養いましょう。

1・2年生の授業 語学

日吉時代の学習がその後を決める

語学・中国語 林秀光(りん・しゅうこう) 先生


語学・中国語 林秀光(りん・しゅうこう) 先生

1年生のうちに一生ものの発音を

4月は出会いの季節です。初めてのクラスに足を踏み入れるとき、いつも心によぎる思いがあります。なにかのご縁で、これから一緒に中国語を勉強するのだな、と。1年生から4年生までわたしのクラスに在籍する学生もいますが、就職活動を終え、一段と凛々しくなった姿に1年生の時の初々しさが思い出され、感無量の気持ちになります。
法学部中国語共通して、1年生のうちに、「一生もの」の発音を徹底的に叩き込みます。中国語の声調やきれいな響きを覚えてもらうために、わたしのクラスでは、漢詩や童謡を暗誦することもあります。2年生は他クラスの会話、読解とのバランスをとりつつ、わたしのクラスでは主として文法を系統的に勉強します。



中国語が人生を豊かにする

文法の勉強が好きな学生と苦手な学生がいますが、伸びる学生はきちんと文法も理解しているものです。わたしは、はったりはやめよう、文法を正しく自信をもって発話するようにしようと念を押しています。3、4年生になると、日吉時代にがんばった学生は目立って伸びます。それまで勉強したことを見直しつつ、さまざまな文体の中国語を読んだり、四字熟語や故事を覚えたり、中国語の「息づかい」が感じられるように、楽しんで学ぶことができます。
慶應義塾大学法学部は、日本における現代中国研究の中心としても有名です。大学で習った中国語は、学問あるいはビジネスの世界で日中関係に携わろうという君の人生を豊かにするでしょう。

1・2年生の授業 人文科学

歴史を振り返り、今を学ぶ

人文科学・歴史 片山杜秀(かたやま・もりひで) 先生


人文科学・歴史 片山杜秀(かたやま・もりひで) 先生

無理を重ねてきた近現代の日本

広島、長崎、アウシュヴィッツ。20世紀の悲劇の舞台です。そこにチェルノブイリや21世紀に入ってからの福島を加えられるかもしれません。二つは原爆投下、二つは原発事故、一つは大虐殺。五つのうち三つまでが日本での出来事になります。
この国は世界の中でも特別に呪われているのでしょうか。まさかそんなことはありますまい。近現代の日本は、世界でも飛び抜けて背伸びしてきた。無理に無理を重ねてがんばってきた。そのせいで成功したこともいっぱいある。しかし背伸びをすれば転びやすくもなる。それゆえに悲劇の発生率も高くなる。そう考えることはできないでしょうか。



関連領域を学ぶことで見える視座

私は近現代の日本の思想や文化の歴史にとりわけ興味を持っています。具体的に言えば、二つの世界大戦の時代、さらに戦後の政治思想や社会思想、哲学や文化芸術です。そこには多くの実りがある。けれど無理をしすぎたゆえの失敗や悲劇もある。今の日本はそういう教訓を学んだり忘れたり、とにかくその積み重ねの果てに出来ている。やはり温故知新です。歴史を振り返ってこそ初めて今を学ぶ視座も獲得できるというものでしょう。
みなさんは法律や政治に興味を抱かれて法学部を目指されるのだと思います。しかしそれだけをいきなり極めるということは、当たり前ですがありえません。前提や関連領域をよく知ってこそ初めて見えて気づいて閃くことも多い。歴史を含めた人文科学の諸講座は、そのために用意されているのです。

1・2年生の授業 自然科学

科学的視点と判断力で探る

自然科学・生物学 小野裕剛 (おの・ひろたけ)先生


自然科学・生物学 小野裕剛 (おの・ひろたけ)先生

社会問題と密接なかかわりを持つ生物学

「法学部なのに自然科学?」と聞かれることもありますが、法律や政治の対象となるのがヒトという生物の活動である以上、科学的観点を避けることはできません。とはいえ、基礎的な内容だけでは眠くなるばかりですから、私のクラスでは「民間の遺伝子検査の問題点と規制のあり方」とか「感染症と公衆衛生行政の問題点」といった社会問題と関連づけながら、問題解決に必要な知見について分子生物学を中心に解説しています。法学部に学ぶ皆さんが科学的内容を含めて問題点を正しく理解し、的確な判断力によって上手な社会的合意点を見つけてくれることを期待しています。



ロールプレイング形式で表現力を鍛える

自然科学科目にはもう一つの目的があります。福澤諭吉先生は『物理学之要用』の中で「初学を導くに専ら物理学を以ってして、恰も諸課の予備となす」と述べられ、自然科学の持つ論理性が全ての学問の基礎となることを示唆されています。日吉キャンパスでは文系学生向けに【実験を含む】科目を大規模に設置しており、これらの科目こそ、実験結果を論理的に検証し、レポートを作成する過程を通じて「諸課の予備となす」ための科目なのです。
私のクラスでは表現力をより鍛えるために、自らを企業の研究員や医師であると仮定してクライアントに対して研究開発や医学検査の意義を説明する、いわゆる"ロールプレイング形式"での課題設定を行っています。

3・4年生の授業 国際刑事法

「古くて新しい」国際刑事法

フィリップ・オステン教授
担当授業:国際刑事法


フィリップ・オステン教授

国際刑事法とは何か?

国際刑事法は、日本では講座が設置されている大学がまだ少なく、慶應義塾でしか学べない科目の一つであるといえます。国際刑事法には、広義の国際刑法と狭義の国際刑法という二つの側面があります。前者は、「国際法の刑事法的側面」(国際社会全体の関心事たる「中核犯罪」の訴追・処罰など)、後者は、「国内刑事法の国際的側面」(刑法の場所的適用範囲、刑事事件における外国との協力など)を扱う学問領域です。



広義の国際刑法――戦争犯罪・国際法廷と日本

広義の国際刑法では、ナチス・ドイツによるホロコーストや日本の戦時中の犯罪とその後のニュルンベルク裁判・東京裁判、冷戦後の旧ユーゴスラヴィアやルワンダにおける虐殺、現在ニュースを賑わせているいわゆる「イスラム国」など、最も重大な犯罪である中核犯罪――ジェノサイド罪・人道に対する犯罪・戦争犯罪・侵略犯罪――の責任者をどのように訴追・処罰すれば良いのか、という難題を扱います。2002年に創設された国際刑事裁判所(ICC)では、目下、コンゴ民主共和国やスーダン・ダルフール地方などにおいて発生した事件の審理が進められており、2014年には上訴審で有罪判決が初めて確定しました。そんな中、2007年にICCに加盟した日本は、これまでのところあまり存在感を示せていません。本授業では、戦後に東京裁判を経験した日本だからこそできる貢献についても考えます。



狭義の国際刑法――刑事司法のグローバル化

狭義の国際刑法では、日本人が海外で遭遇する犯罪や日本での外国人犯罪を題材に、刑法の適用範囲の問題から、犯罪人の引渡し、外国との捜査協力、受刑者の母国への移送に至るまで、幅広く勉強します。加速度的にグローバル化が進行している現在、従来の刑事司法制度では対応しきれない問題が数多く生じています。インターネットを利用した犯罪や外国人被疑者の国外逃亡の問題などがその最たる例です。このような問題を抱える日本の刑事司法はどのような変革を遂げていくべきか――授業に参加している全員でアイディアを出し合います。

3・4年生の授業 労働法・社会保障法

人の暮らしを支える法律

内藤恵教授
担当授業:労働法・社会保障法


内藤恵教授

労働法とは何か?

現代社会では多くの人々が企業で働き、賃金を得て生活しています。しかし労働者は、使用者である企業に比して弱い立場に立つことも多く、時には劣悪な労働条件下に置かれます。働く人の権利が不当に侵害されないように、国家は多数の法律を制定しています。労働法とは、それら労働者保護に関する法律群の総称です。
例えば労働契約を締結する際には、労働基準法が定める労働時間や賃金に関する条件を充足する必要があります。最低賃金法は賃金の最低基準を定め、不当に安い賃金を規制します。過労死・過労自殺等が生じた際には、労働災害として使用者の安全配慮義務違反が問われます。パートタイマーや派遣労働者に対する様々な保護法もあります。労働法は、労働者が健全な職場環境で働けるようにコントロールし、労使間の様々な法的問題の解決を図ります。



社会保障法とは何か?

社会では貧富の格差が拡大しています。憲法第25条は「生存権」を定め、国民の幸福な生活を保障します。例えば生活保護法は、貧困というリスクを負う世帯に対し、最低限度の生活を保障します。貧困家庭で育つ児童に対しては、児童扶養手当法が特別な手当制度も定めます。
あるいは病院に行く時は医療保険を利用します。また労働災害が起きた際には、労災補償保険が療養補償・休業補償・遺族補償などを行います。このような社会保険も社会保障法の一領域です。公的扶助、社会福祉、社会保険の全てをふくむ総称が、社会保障法なのです。



労働法・社会保障法の意義

当分野は現代社会特有の問題を扱い、国民の幸福な生活を支える様々な法制度を考察します。例えば女性労働力の活用には単に労働法上の保護だけでなく、ワーク・ライフ・バランスを保つ為の社会的支援システムが必要です。労働法と社会保障法は、多くの点で相互に有機的関連性を有し、互いに支え合って社会の発展に寄与しています。

3・4年生の授業 会社法

会社に関わる人たちを調整するルール

杉田貴洋(すぎた・たかひろ)教授
担当授業:会社法


杉田貴洋(すぎた・たかひろ)教授

会社法とは?

商売を始めるには、ふつう、店舗、機械、設備などを調えるために"先立つもの"が、それもまとまった資金が、必要になります。一人ではなかなか必要な資金を賄いきれないとすると、ほかの人と資金を出し合って、共同して商売を始めることになるでしょう。そのようにしてできた出資者の仲間(カンパニー)の団体を一つの企業主体として、あたかも社会における一人の人(法人)としてその活動を認める仕組みが会社の制度です。
会社法は、会社に関わる者の間で利害が対立する場合に、それを調整するルールを定めるものです。例えば、会社の経営が傾いて銀行や取引先への借金の返済が滞ることになれば、出資者の責任が問われることになります。会社には、株式会社や合名会社など4種類がありますが、その区別は、主として出資者が会社債権者にどのような責任を負うかによってなされます。
株式会社では、株主(株式会社の出資者)には会社の経営権限が認められておらず、株主総会で選んだ取締役に会社の経営が委ねられます。これは、株式会社に特に認められているもので、経営の専門家に会社の運営を任せ、効率的な経営を実現できるメリットがあります。しかし他方で、取締役の怠慢によって株主の利益がないがしろにされるかもしれません。取締役が違法な手段を用いて手っ取り早く金儲けをしようとするおそれもあります。そこで、取締役をチェックする権限を有する機関として監査役や会計監査人といった制度が用意されています。分裂しがちな、株主の利益と取締役の利益とをできるだけ一致させるような工夫も求められます。



会社法とコーポレート・ガバナンス

取締役に、法に遵った経営をさせつつ、同時にいかに効率性を追求させるかが、いわゆるコーポレート・ガバナンスの問題です。これには、会社法上いかに制度設計するかという立法の問題と、会社法のルールを前提にいかに運用するかという問題とがあります。一国の経済力にも関わる重要な課題です。

3・4年生の授業 現代東南アジア論

開いた地域としての東南アジアを考える

山本信人(やまもと・のぶと)教授
担当授業:現代東南アジア論


山本信人(やまもと・のぶと)教授

他者理解としての地域研究

地域研究とは他者の生活する特定の地域への理解を深める作為です。理想的には、他者理解のためには言語を修得することから始まり、食生活や文化や慣習、そして政治・社会・経済制度などを学習して、その上で他者の考え方への想像力を磨く必要があります。言うまでもなく一朝一夕では他者理解はできず、じっくりと腰を据えて他者(そして自己)と向き合う必要があります。地域研究を極めるという理想の実現には時間がかかりますが、授業を介して少しでも他者理解の機会を学生諸君に提供したいとぼくは考えています。



東南アジアへの視角

ぼくの担当する科目は現代東南アジア論です。東南アジア地域は11個の国民国家が存在します。しかし東南アジアはその11カ国で閉じているのではなく、他の地域や国家や人との密接な関係性を有する開いた地域です。なかには国民国家への帰属を意識しないで生活している人びともいます。長く劇的な人の流れの歴史をもつ東南アジアは一筋縄では理解できない魅力が満載です。ぼくの講義では、空間的な地域、時間的な地域、そして実態としての東南アジアを複眼的に理解する試みをしています。それを通して、開いた地域としての東南アジアの軌跡と行く末について考える機会としています。



英語を介した東南アジア

少人数の演習形式である特殊研究では、東南アジア地域に関する文献を介して他者理解の仕方を学生諸君とともに模索します。英語文献を主体にし、英語で授業をおこないます。英語で書かれた歴史、政治、社会、文化に関して知識の塊を紐解き批判的に読み込むことで、自分なりの問いと東南アジア理解が形成されます。英語で考えることは日本(語)的な理解から自らを解放する作業でもあります。英語は他者との共通理解への道を切り開き自らを相対化するツールです。英語を介した東南アジア地域研究はそうした可能性を秘める作業であると考えています。

3・4年生の授業 公共経済論

国を動かす財政を理論で分析

麻生良文(あそう・よしぶみ)教授
担当授業:公共経済論 I ・II


麻生良文(あそう・よしぶみ)教授

政府部門の経済分析

この講義では、政府活動の根拠や、租税や公債による財源調達が民間の活動にどのような影響を与えるかを論じます。
国防や警察活動等の国の基本的な役割を民間部門に委ねられないのは当たり前ですが、公的な年金・医療保険は民間の保険で代替できないのでしょうか。太陽光・風力発電に補助金をつけて優遇することは正当化されるのでしょうか。電気・ガスの供給を地域独占会社に任せるのではなく、この分野にも競争を導入させるべきなのでしょうか。あるいは、そもそも、民間でできることは民間に任せるべきなのでしょうか。こうした問題は、そこに「市場の失敗」があるかないかに還元して考えることができます。



望ましい政策を考えるための理論

さて、政府活動の財源は租税や公債発行によって支えられています。こうした政府の財源調達活動も民間の活動に影響を与えます。例えば、所得税は個人の労働意欲や雇用に影響を与えると考えられます。消費税の増税前に、住宅や自動車等の駆け込み需要が発生したのも記憶に新しいと思います。もちろん、租税が経済活動に与える影響だけを議論していても不十分です。望ましい税制とは、単に経済活動に与える悪影響を最小化するだけではなく、同時に公平面にも配慮する必要があるからです。
また、現在の日本では、財政赤字の問題も深刻です。今後、日本の人口は急速に高齢化していくため、年金・医療等の社会保障支出の大幅な増加が見込まれています。このため、日本の財政赤字は、表面的な数字以上の深刻さを抱えています。
望ましい政策のあり方を考えるためには、単に事実の経過だけ追っていても十分ではありません。理論を学ぶ必要があるのです。

3・4年生の授業 経済法

実務での需要性が増す経済法

田村次朗(たむら・じろう)教授
担当授業:経済法


田村次朗(たむら・じろう)教授

経済は競争である

市場経済の本質は競争です。競争があるからこそ、企業はよりよい製品やサービスを作り続けなければなりません。そしてビジネスの競争は、新しいアイデア、発想そして技術を生み出していくものなのです。このダイナミックで常に変化し続ける市場の原動力が競争です。逆に、競争がなくなれば市場経済は崩壊してしまいます。そこで、競争を守らなければなりません。それが、経済法の役割なのです。



競争はどうやって守るのか

では、競争を守るためにはどうすればいいのでしょうか。経済法では、企業同士が競争を勝手にやめてしまうこと、すなわち競争の停止(カルテル、談合)と、ライバルを不当な手段を使って市場から追い出してしまう競争者の排除という二つの行為に注目します。さらに、合併の審査や、不公正な取引方法の禁止、下請業者を保護する下請法や、商品の表示を偽ることを防止する景品表示法も取り扱います。このように経済法は、市場における競争に関わるあらゆる現象を取り扱っていると言ってもよいのです。



経済法は楽しい

たとえば、経済法を学ぶことで、なぜ、定価、希望小売価格あるいはオープン価格という表現の使い分けが重要になるのか、新日鉄と住友金属がグローバルに競争するために合併すると発表したときに、公正取引委員会がなぜそれを慎重に審査するのか、といった問題の本質を理解することができます。このように経済法では、企業戦略やマーケティングのメカニズムが手に取るようにわかるようになります。また経済法の議論には経済学の考え方が反映されているので、経済学の理解も深まるわけです。
経済法は、実務での重要性が増しています。にもかかわらず、経済法専門の弁護士はまだまだ少ないのが実情です。経済法を身につけると、ビジネス・ロイヤーとして活躍する機会が増えるだろうと思います。

3・4年生の授業 現代政治理論

新しい方法で民主主義を分析する

河野武司(こうの・たけし)教授
担当授業:現代政治理論Ⅰ・Ⅱ


河野武司(こうの・たけし)教授

市民が真の意味で主役となるには

現代の社会において格差の拡大を肯定する人はいないでしょう。それにも拘わらず、構造改革の名の下に進められてきた政府の諸政策が、格差の拡大をもたらしているのが現状です。弱肉強食というジャングルの論理が支配する市場中心の自由競争社会に国民を放り出すことが果たして政治の役割でしょうか。
このような問題意識から本講義ではまず春学期において、現代の代議制デモクラシーに関する様々な理論について紹介し、そこで議論されている機能不全とそれが起こる理由を検討しています。基本的には、合理的選択アプローチという従来の政治学にはない新しい方法から、民主主義を分析した諸理論を取り上げています。
秋学期においては、春学期で検討した代議制デモクラシーの機能不全を、いかに解消しうるかについての制度的方策と人的要素について検討しています。エリートによって主導される民主主義ではなく、市民が真の意味で主役となれる新しい民主主義の形態・制度について考察するわけです。具体的には、インターネットという新しい情報メディアを利用した市民によるより直接的な政治参加の方法と、競争社会ではない共生社会に相応しいより利他的な個人をいかに育成できるかを検討しようというものです。



講義の進め方は講述と板書

私は今日はやりのパワーポイントを使った授業は行いません。講述と板書という伝統的な方法の授業です。それは学生諸君にノートを的確にとることによって、自分だけの教科書を作って欲しいという願いからです。自分が作った自分だけの教科書を、簡単に捨てる人はいないでしょう。講義の概要を記したレジュメなど、人から与えられたものは容易に捨て去ることが可能です。しかしそれは同時に勉強したことを捨てているのと同じことです。さらにはより理解を促進するために、一方的にこちらが話をするだけではなく、必要に応じて受講生に対して質問を投げかけることで、対話を心がけています。
学生の皆さんは、「良き師、良き友、良き本」という三つの出会いを通して、大学という知的ワンダーランドを満喫して下さい。

3・4年生の授業 国際政治論

おもしろさは"正解"の先にある

田所昌幸(たどころ・まさゆき)教授
担当授業:国際政治論(国際政治経済論)


田所昌幸(たどころ・まさゆき)教授

国際政治学はニュース解説ではない

この研究会では国際政治学全般を取り扱いますが、国際政治学の範囲はきわめて広範でその手法も実にさまざまです。学生の期待もさまざまなので、いつも以下の二つのことを強調しています。一つは、国際政治学はニュース評論とは違うので、テレビのニュース番組のような鮮度の高い情報を得ることを期待している学生はがっかりするだろうということ。学問の固有の役割は、簡単に言えば深く考えることによって結論を出す営みであり、出来合の知識を要領よく憶えることではないからです。
二つ目は、社会科学の方法論は、自然科学よりもはるかに不安定でそれ自身が学者の間で論争になるが、ここではごくごく常識的で伝統的な手法でアプローチするということです。社会科学の王道は歴史と哲学なのだというのが私の立場で、そのうち哲学は、私は専門家とは言えませんが、外交史はそれなりに勉強してきたので、このゼミでもそれを基本に授業を展開しています。



学問は面白くなくては

こう書くと、硬いイメージがするでしょうが、学問は実は知的にわくわくするような営みであり、偏差値競争に最適化している学生を、知的に活性化することができれば、ほとんど私の仕事は終わりだと割り切っています。ほとんどの慶應の学生は、情報を吸収すること、マニュアルを理解し適用することといった、普通高校までの教育で求められることについては巧者なので、「正解」のある問題を「解く」ことは学生任せでよいのだろうと私は思っています。
しかし、学問の醍醐味は実はその先にあるのです。国際政治はもちろん、我々にとって大問題の多くには確たる「正解」はないことの方が多い。正解が判らなくとも我々は何かを選ばなくてはならないときも多いが、歴史は先人たちのさまざまな選択を数多く教えてくれるものです。歴史はさまざまな問題に見事な「正解」を与えてはくれません。しかし、思いも寄らぬ帰結や、そんな考え方もあったのかという発見には事欠きません。そのおもしろさを感じることができれば、情報の集め方や細かな分析手法などは、常識的な知性で十分だと私は考えています。

国立ミンスク言語大学(ベラルーシ)留学

自分と向き合える貴重な時間

政治学科3年 Tさん


法律学科

ベラルーシ

私は2年次終了後に1年間休学をし、ベラルーシ共和国の首都にある国立ミンスク言語大学に留学しました。ベラルーシはロシアとポーランドに挟まれた東欧に位置する、自然豊かな旧ソ連の小さな国で、建国以来大統領が同じなので「ヨーロッパ最後の独裁国」と言われています。



なぜベラルーシ?

大学時代に留学することは幼いころからの目標でした。異文化に触れることが好きだった私は映像や旅行だけでは物足りないと感じ、留学を志すようになりました。ベラルーシへの留学を決めた理由は三つあります。第1に、独裁国に住む人々の政治に対する生の意見を聞いてみたかったこと、第2に、インテンシブクラスで履修してきたロシア語力を上達させたいと思ったこと、そして第3に、マイナーな国に留学することでほかの学生とは異なる経験をしたかったことです。そして留学の為に休学を決意したのは、ゼミと就職活動にも十分取り組みたいと考えたからです。仲の良い同期達と学年がずれた事は寂しいですが、結果的にこの選択は自分の人生にとって最も意味のあるものになりました。



ベラルーシでの体験

現地での生活は大変なことも多々ありましたが、その分大きく成長して帰国することができました。ベラルーシの郵便事情が原因で出発が3週間も遅れたり、お互いに意思疎通が満足にできない状態でルームメイトが揉めたり、2週間もお湯が使えなかったり、鶏を捌かねばならなかったりと、様々な困難にぶつかりましたが、それらを乗り越えるたびに新たな能力が備わったように思います。また講義時間が短く娯楽も少なかったため、「自分にとっての幸せとは何か」など、日本での忙しい生活下では考える余裕のなかったことにゆっくりと向き合うことができました。就職という大きな選択をする前に自分を見つめ直す有意義な時間を持てたことに対して、心から良かったと思っています。



さあ、飛び出そう

高校生の頃の私は、まさか自分がベラルーシという馴染みのない国に留学することになるなんて想像もしていませんでした。しかし、大学の最初の1年で私は、ベラルーシ留学に出会いました。大学という場所は自分の意思と行動力次第でどんなことにでも挑戦できるところなのです。高校生の皆さんの中には、留学してみたいと考えている方々がたくさんいらっしゃると思います。実際にどのような選択をするかは自分次第です。夢に向かって、ともに頑張りましょう!
*法律学科西川ゼミ(「英米法・国際取引法研究会」)所属

リーズ大学(イギリス)留学

逆境を楽しむ

政治学科3年 Iさん


政治学科

研究テーマを見つけて

慶應入学当初から私は、国際政治学の中でも安全保障という日本ではそれほどメジャーではない分野を学びたいと考えていました。もっともその興味の中心はあくまで日本の安全保障にあり、1年生のころは留学については全く考えていませんでした。
しかし、霞会というサークルで国際政治を勉強するうちに、「海外を知らずに外交や防衛を語れるのか」という疑問が沸いてきました。そのような時、サークルの尊敬できる友人たちが相次いで留学を決め、「負けていられるものか」という思いから留学を決めました。
リーズ大学歴史学部を留学先に選んだのは、近代国際政治史の中心であった英国で、伝統ある歴史学の観点から安全保障を学びたかったからです。国際政治学には理論と歴史という二つの大きな分析枠組みがありますが、慶應では宮岡ゼミで理論を用いて安全保障を学んでいました。そこで、歴史学の観点からも安全保障を学ぶことで、より自分の研究を深められると考えたのです。
リーズ大学はロンドンとエディンバラの中間の学園都市リーズに位置し、野生のリスが駆け巡る広大なキャンパスに美しい校舎が立ち並ぶ穏やかな大学でした。さらに、「戦力投射(power projection)」や「近代戦争史」などの安全保障に関する授業を希望通り受講でき、学問をするには素晴らしい環境が整っていました。



壁は乗り越えられる

しかし、偶然にも語学以外の授業全てで非英語圏出身者が自分ひとりだったので、授業についていくだけでも非常に苦労しました。前期の初回授業でネイティブ同士の活発な議論を前に一言も発せず、呆然としつつ「大変な所に来てしまった」と衝撃を受けたのを、今でも鮮明に覚えています。しかも、毎日100ページ近い文献を読みディスカッションとプレゼンテーションを行う膨大なカリキュラムの前には、語学力が向上するのを待っている余裕はありませんでした。
そこで、逆境を逆手に取り、唯一のアジア人・日本人という立場を強みに変えるよう努力しました。授業では、日露戦争・満洲事変・ベトナム戦争など、日本やアジア諸国がテーマとなる機会は多く、その際には教授の研究室に何度も足を運んで疑問点を解消し、誰よりも多くの文献を読み込みました。その結果として、授業での議論を主導でき、ネイティブの学生からアドバイスを求められるようになったことは大きな喜びでした。
このような経験を通して、立ち塞がる壁を乗り越えることに楽しみを見出せるようになったことが、留学で私が得た最大の成長であると思います。同時に、日本人がマイノリティな環境で、「日本人として世界でどのように生きるか」を深く考えさせられたことは人生においてかけがえのない経験になりました。