博士課程院生研究紹介

不作為による幇助の成立要件について
濱田 新

本研究テーマに関する発表

発表者氏名
(著者・講演者)
発表課題名
(著書名・論文名・演題)
発表学術誌名
(著書発行所・講演学会)
学術誌発行年月
(著書発行年月・講演年月)
亀井源太郎・濱田 新 危険運転致死傷罪の正犯者である職場の後輩がアルコールの影響により正常な運転が困難な状態であることを認識しながら、車両の発進を了解し、同乗して運転を黙認し続けた行為について、同罪の幇助罪が成立するとされた事例 法律時報 2014年2月

研究成果実績の概要

 研究全体のテーマは、幇助犯の成立要件を具体化することである。従来、幇助犯は犯罪を容易にすれば成立すると考えられてきた。しかし、このように考えると、およそあらゆる行為が幇助行為となり得ることから、処罰範囲が広がる危険性がある。そこで、幇助犯の成立要件を明確化し、処罰範囲を限定する必要がある。
 このような問題は、近時の学説においてだけでなく、裁判所においても、意識されているようである。例えば、実際に幇助犯の成否が問題となった最近の判例を検討すると、いわゆるWinny事件高裁決定は、ファイル共有ソフトの利用状況等を考慮した上で、幇助の客観的成立要件を肯定している(ただし、被告人に故意がないとして、無罪とした)。同決定は、幇助行為性を具体的に限定したものと評価できる。また、車両の発進を了解し、同乗して運転を黙認し続けた行為について、危険運転致死傷罪の幇助が認められた最高裁平成25年4月15日決定も、重要である(詳しくは、亀井源太郎教授と共著の判例評釈である法律時報2014年2月号参照)。最高裁は、正犯と被告人との人的関係・具体的状況等を考慮の上、車両発進の了解・黙認につき作為による幇助が認めているが、人的関係・具体的状況いかんによっては、幇助の成立が否定された可能性がある。同決定も、幇助行為性を厳格に解釈していると評価できる。そこで、これらの判例や近時の学説を手掛かりにして、作為による幇助の成立要件の具体化に取り組んだ。検討の結果、犯罪実行に言うに値するほど必要な道具や助言を提供し(物理的幇助)、あるいは犯罪実行に同意を表明することで(精神的幇助)、犯罪実行・結果発生を容易にした場合、幇助犯が成立すると結論付けた。この成立要件は、作為による幇助の処罰範囲限定に資するように思われる。
 今回に中心に取り組んだ研究テーマは、不作為による幇助の成立要件の具体化である。不作為による幇助は、作為による幇助と同価値であるがゆえに、処罰されると考えられるから、不作為による幇助犯の成立要件は、作為による幇助犯との対応関係の考察によって、明らかになる。そこで、作為による幇助に関する研究を手掛かりに、検討を行った。
 不作為による幇助の成否が争われた裁判例は、児童虐待犯罪との関連で増加している。例えば、内縁の夫が子に対し暴力を振るい、子が死亡した際、暴力を制止しなかった母親に対する傷害致死罪幇助の成否が争われた事件がある。札幌地裁平成11年2月12日判決は、不作為による幇助の因果関係を肯定するには、犯罪の実行をほぼ確実に阻止し得たことを必要とした上で、無罪としたが、札幌高裁平成12年3月16日判決は、犯罪の実行をほぼ確実に阻止し得たことは 不要であると指摘し、傷害致死罪の幇助の成立を認めた。
 作為による幇助の因果関係は、犯罪実行・結果発生を容易にした場合に肯定されるから、作為による幇助との対応関係に鑑みると、犯罪実行・結果発生を困難にした可能性がある場合(つまり、不作為により犯罪を容易にした場合)には不作為による幇助の因果関係が肯定されることになろう。しかし、札幌高裁に対しては、作為による幇助の成立要件を単純に類推することは妥当でなく、処罰を拡張するとの批判がある。もっとも、札幌高裁のように考えたとしても、ただちに処罰範囲が拡大するとまでは言えないように思われる。幇助の因果関係を肯定するにあたっては、犯罪実行・結果をどのように容易にしたのかが具体的に明らかにする必要がある。それゆえ、犯罪実行・結果発生を困難にした可能性が低く、不作為によって犯罪実行を容易にしたといえない場合には、因果関係が否定されよう。
 参考になる裁判例として、名古屋高裁平成17年11月7日判決がある。同事件では、子に対する交際相手の暴力を阻止しなかった母親に対し、不作為による傷害致死幇助が成立するかが問題となった。名古屋高裁は、札幌高裁と同様、不作為による幇助の因果関係を肯定するには、犯罪の実行をほぼ確実に阻止し得たことは不要であると指摘している。しかし、交際相手に対し口頭で制止し、監視するだけでは確実に阻止できたとは考えがたいとし、暴行を阻止するには、不断に警戒し、機先を制して交際相手の体を抑制したり、子の体に覆いかぶさるなどすることが必要とした。もし「犯罪の実行をほぼ確実に阻止できたのに放置した」との要件が不要であるならば、確実に阻止できたとはいえない口頭での制止、監視行為をも義務付けられても良いはずである。しかし、名古屋高裁は、被告人には体を張って交際相手の犯行を阻止する行為が義務付けられるとしている。名古屋高裁が、義務付けられる作為に口頭での制止や監視を加えていない点からすると、義務付けられるべき行為は、犯罪実行を困難にする可能性がある程度高い行為に限定されているように読める。
 このように、不作為による幇助の因果関係の内容を、犯罪実行・結果発生を困難にした可能性があれば足りると解釈したとしても、処罰範囲は過度に広がらないように思われる。それゆえ、不作為による幇助の因果関係は、作為による幇助との対応関係に鑑み、犯罪実行・結果発生を困難にした可能性があれば認められると解釈すべきであると考える(本研究の成果は法学政治学論究に投稿予定)。

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