博士課程院生研究紹介

中国国境地域の少数民族のアイデンティティとマス・メディアの役割 ー朝鮮族・モンゴル族・ウイグル族・チベット族の事例を中心にー
金 雪

本研究テーマに関する発表

発表者氏名
(著者・講演者)
発表課題名
(著書名・論文名・演題)
発表学術誌名
(著書発行所・講演学会)
学術誌発行年月
(著書発行年月・講演年月)
金 雪 中国朝鮮族のメディア利用実態 三田社会学 2008年7月
金 雪 メディア利用とアイデンティティとの関係ー中国朝鮮族の事例を中心にー 慶應義塾大学法学政治学論究第83号 2009年12月
金 雪 中国モンゴル民族のアイデンティティとメディア利用 慶應義塾大学法学政治学論究第94号 2012年9月
金 雪 中国朝鮮族アイデンティティとメディア言説 中国朝鮮民族史学会 2013年3月
金 雪 中国チベット族・ウイグル族のインターネット利用とアイデンティティの形成 日本マス・コミュニケーション学会 2014年10月

研究成果実績の概要

 【研究の目的】これまで中国少数民族は、中国の「中華民族の多元一体構造論」という民族政策下で、「中華民族」としてより意識的に中国人であることが重要かつ強調されてきた。しかし、現代 (グローバル化・情報化) 社会では、さらに、中国のような多民族国家では、国民国家といった社会全体の共通の価値観、つまり、「中華民族」という大きなカテコリーに、少数民族を属させることは難しくなってきている。中国と少数民族、この2つの研究テーマに共通するのは、複雑化していく21世紀の新たの世界観に対峙して、どのようにアイデンティティを再形成しているのかという問題意識である。国民国家の境界がゆるみ、それとともにトランスナショナル・アイデンティティ、トランスナショナル・ネットワークなど、越境性による新たなアイデンティティの再形成が課題として注目される。換言すれば、少数民族個々人は、自分で複数のアイデンティティを選択しなければならない状況に置かれている。それでは、中国少数民族のアイデンティティとメディアの利用という2つの間にはどのような関係があるのか、2つのつながりにはどのような問題領域を示しているのか、といった問いが提起される。本研究は、隣国に自民族を持つ朝鮮族とモンゴル族、また隣国に自民族文化として同じ宗教文化を持つチベット族とウイグル族が研究の対象としている。少数民族のアイデンティティとメディア利用との関係を見ると、少数民族のアイデンティティの再形成に、クローバル化あるいは越境メディアの利用は、少なからず影響を与えているといえる。以上を踏まえ本研究では、中国の多民族社会状況・メディア環境で、国境地域の少数民族のアイデンティティはどのように規定され左右されていくのであろうか。彼らか抱く複数のアイデンティティの中で、どのようなアイデンティティが優先されるのであろうか。これらの問いを明らかにすることを本研究の目的とする。
 【研究の方法】本研究は、中国における国境地域の少数民族のアイデンティティ形成に影響を与えるマス・メディアの役割に焦点を当てて、中国朝鮮族、モンゴル族、ウイグル族・チベット族を対象として実施した調査研究をとりまとめ、分析を行われた。中国朝鮮族調査研究は、2005年8月に、中国延辺自治州延吉市の朝鮮族大学生、大学教授、記者、放送人など合計200名を対象にインタビュー調査と質問紙調査を実施した。調査内容は、大きく分けて①人口統計学的特性、②中央CCTV、延辺TV、韓国衛星放送メディア利用実態、③朝鮮族意識形態に分類した。中国モンゴル族調査は、2009年8月に、フフホト市のモンゴル族200名を対象に質問紙・インタビュー調査を実施した。また調査では、分析対象となったモンゴル族を、モンゴル語・中国語の能力によって、「統合」、「分離」、「同化」、「疎外」グループに分類した。中国チベット族・ウイグル族の調査は、2011年2月から2013年8月までを調査期間とし、北京に在住するチベット族、またはウイグル族の身分証を有している、チベット族8名と中央民族大学のウイグル族在学生8名を対象に、インタビュー調査を行った。
 【得られた知見】結果として、延辺地域の朝鮮族は、中国人・朝鮮族としての意識を高く持って中央1TV・延辺1TVを利用する同時に、朝鮮民族の伝統文化(礼儀作法や習慣)を継承するために韓国衛星放送を、そして朝鮮族としての自分らしい文化を追求するために延辺1TVをそれぞれ活用し、そうした期待を持って各テレビ番組に接しているといえる。言い換えると、もともと韓国人と同一民族アイデンティティを抱く朝鮮族は、中国への移住によって中国人・朝鮮族という複合的なアイデンティティを保持する傾向が強いことを示している。このような複合的なアイデンティティは、中国・韓国メディア両方を利用することが、主な要因であることは否めない。モンゴル族の多くは「統合」グループに属し、自民族文化と中国文化の両文化に巧みに適応していることが明らかになった。また4グーループとメディア利用との関係をみると、「統合」グループのメディア利用度が高いことが分かった。また、モンゴル民族は外モンゴル人とは同じ民族であることは認めているが、モンゴル族はモンゴル人ではないと述べて、自民族意識より中国人としての意識が強いことが明らかになった。チベット族・ウイグル族の場合、どのインタビュー対象者も「中国人」意識より自民族意識(アイデンティティ)が強いことが分かった。とくに、ウイグル族は、民族(集団)意識が強く、「我々」ウイグル族と「彼ら」漢民族との間に境界線を引く傾向が見られた。メディア利用に関しては、チベット族やウイグル族は、伝統メディアよりインターネットの利用頻度が高く、ネットを通じて主に自治区にいる家族や友人とのコミュニケーションを行っていることか明らかになった。チベット族の回答者の中には、今の自治区生活を変えることを望んでいる同時に、隣国(ブータン)への憧れを抱いていた。

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