博士課程院生研究紹介

外交政策とメディア:戦後日韓関係における歴史認識問題を事例に
三谷 文栄

本研究テーマに関する発表

発表者氏名
(著者・講演者)
発表課題名
(著書名・論文名・演題)
発表学術誌名
(著書発行所・講演学会)
学術誌発行年月
(著書発行年月・講演年月)
三谷 文栄 外交政策とメディア、世論に関する一考察:W.リップマンの『世論』を手掛かりに 『メディア・コミュニケーション』63号 2014年3月

研究成果実績の概要

 本研究の目的は、外交政策とメディア、世論の関係を分析するための枠組みを提示することである。外交政策とメディア、世論の関係を対象とした研究は、マス・コミュニケーション研究の黎明期から提示されてきた、中心的な問いである。第一次世界大戦において一般市民の戦意を高揚/喪失するものとしてマス・メディアが用いられ、大きな成功を収めた。このことから、大衆社会論の発展とともに、プロパガンダを中心に研究が進められてきた。プロパガンダは、マス・メディアが一般市民の行動に与える影響を高く評価するものであり、マス・メディアの与える刺激とそれを受けとる一般市民の反応という、一方向的なコミュニケーションを前提とした分析モデルであった。プロパガンダ論は、外交政策や戦争という枠組みを超え、様々な争点を分析する際に用いられるようになったのである。
 しかし、プロパガンダ論そのものは、大衆社会論とともに批判的に議論されるようになり、中間集団の影響力を評価する「二段階の名流れ」モデルなどが提示されるようになった。メディアは一般市民の行動を変更させるまで強力な影響を有していないとする観点から第二次世界大戦後は研究が進められてきたが、外交政策、メディア、世論の関係を対象とした研究領域においては、プロパガンダ論の発想は引き継がれてきた。それは、外交政策に関する出来事を一般市民が直接経験できないことから、マス・メディアの情報に依存するという事実からであった。
 外交政策とメディア、世論の関係を対象とした研究領域では、プロパガンダ論の発想に基づいた研究がなされてきたが、冷戦が終結したことにより再考が求められるようになった。1990年代のグローバリゼーションの一層の深化とコミュニケーション技術の発展により、国外で生じている出来事や情報が一般市民にとってより身近なものとなった。ジャーナリストらも、自ら取材に赴き、現場から報道することが容易となった。こうした状況により、マス・メディアと世論の役割を評価しようとする動きが加速したのである。本研究は、そうした研究の中でも、外交政策とマス・メディア、世論の三者間の相互作用を重視し、フレーム概念を用いた分析枠組みを提示するものである。
 本年度の研究は、マス・コミュニケーション研究の初期の研究に大きな影響を与えたW.リップマンの著作を読み直すことを通じて、当時リップマンが外交政策とメディア、世論の関係をどのように捉えていたのかを明らかにした。リップマンの著作は、1923年に出版された『世論』が最も著名である。この『世論』はリップマンが大衆社会の到来を指摘したものであり、マス・コミュニケーション研究においてはプロパガンダ論の一つとして読まれている著作でもある。確かにリップマンは、第一次世界大戦においてプロパガンダに関与していたが、他方において「14か条の平和原則」の執筆に携わるなど「理想主義的」とされる活動にも関与していた。ハーバード在学時には社会主義に傾倒するなどの側面もあり、『世論』にいたるまでにどのような思考の変遷があったのかは、日本においては十分に指摘されているとは言いがたい。本年度の研究では、リップマンの『外交の重要性(The Stakes of Diplomacy)』や『自由とニュース(Liberty and the News)』と『世論』を比較することを通じて、彼の理想主義的な側面を指摘し、第一次世界大戦を経てアメリカ社会を悲観していく過程を明らかにした。この研究は、マス・コミュニケーション研究におけるリップマンの議論の再検討を通じて、外交政策とメディアと世論の関係を分析する際の枠組みを構築するのに貢献すると考える。また、本年度の研究は、2014年3月公刊の『メディア・コミュニケーション』63号に掲載予定である。

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