博士課程院生研究紹介

国際刑法における侵略犯罪とその国内法化
久保田 隆

本研究テーマに関する発表

発表者氏名
(著者・講演者)
発表課題名
(著書名・論文名・演題)
発表学術誌名
(著書発行所・講演学会)
学術誌発行年月
(著書発行年月・講演年月)
久保田 隆 久保田隆「スイスにおける国際刑事裁判所規程の国内法化――スイス刑法典・軍刑法二〇一〇年改正を中心に――」 法学政治学論究 2013年12月
久保田 隆 The Crime of Aggression: a Successful Revival of Crimes against Peace? 慶應・グルノーブルワークショップ 2014年3月
久保田 隆 久保田隆「ドイツ国際刑法典上の戦争犯罪と刑法典上の通常犯罪の適用関係――国際法上の合法性に基づく刑法上の違法性阻却――」 法学政治学論究 2014年6月
(刊行予定)

研究成果実績の概要

 本年度は主に,研究テーマ「国際刑法における侵略犯罪とその国内法化」をめぐる議論の足がかりとして,国際刑事裁判所規程(ICC規程)の国内法化全般に関して,ドイツ語圏諸国の立法例を参考にしつつ研究を行った。

【拙稿「スイスにおける国際刑事裁判所規程の国内法化――スイス刑法典・軍刑法二〇一〇年改正を中心に――」】
 本稿では,比較的最近になってICC規程の国内法化を完了したスイスの「刑法典・軍刑法2010年改正」を取りあげ,今後国内法化を行う国々への示唆を得ることを試みた。検討を通じて以下の諸点が明らかとなった。
 第1に,立法の時期について,スイスは,ICC加盟時には実体法に関する国内法化を行わず,これを意図的に先送りにした点で,「2段階方式」を採ったといえる。
 第2に,立法の目的に関しては,スイスの立法者が挙げた7つの目的のうち,実体法に関する国内法化を行えば,中核犯罪の被疑者となった自国民をICCへと引き渡さざるをえなくなるリスクが軽減されるという点が重要である。
 第3に,立法方式に関していえば,スイスの立法慣行に鑑み,特別法の制定ではなく一般刑法の改正という方式が採用されたが,中核犯罪に特化した総則的規定が刑法各則の中に置かれるなど,規定ぶりがやや複雑なため,一覧性を欠くという批判は免れない。
 第4に,刑法総則的規定に関しては,一部の例外を除いて,必要最低限の立法手当しか行われなかった。また,なかには,責任主義の原則に照らして,ICC規程上の概念に修正を加えた上で国内法化されたケースも見受けられた。
 第5に,刑法各則的規定,すなわち中核犯罪の規定に関しては,改正前には存在しなかった人道に対する犯罪を国内法化したことに加えて,さらに,ジェノサイド罪および戦争犯罪に関しても,罪刑法定主義の観点から従前の規定の明確性の向上を図っただけでなく,ICC規程に比べて処罰範囲の拡大・縮小を行った点が重要である。
 最後に,これらを総括すると,スイスは,ICC規程を逐条的・逐語的に国内法化したのではなく,①規程以外の条約や国際慣習法,国際法廷の判例にも鑑みて,国内法化すべき概念を選別・追加した上で,②責任主義などの国内刑法上の諸原則に照らして,それらに適宜修正を加えることによって,独自のルール・メイキングを行ったといえる。このように,ICC規程の実体法的側面に関する国内法化とは,①国際刑法(学)の観点および②国内刑法(学)の観点から行われる2段階の検討を通じて,個々の概念の国内法化の要否や態様を判断する作業にほかならないのである。

【拙稿「ドイツ国際刑法典上の戦争犯罪と刑法典上の通常犯罪の適用関係――国際法上の合法性に基づく刑法上の違法性阻却――」】
 本稿では,2002年にICCに加盟する際に「国際刑法典」(Völkerstrafgesetzbuch)を制定して実体法に関する国内法整備を行ったドイツにおいて発生した「ドイツ連邦軍クンドゥーズ空爆事件」をめぐる議論を参考に,次の2つの論点に関する検討を行った。
 第1に,国内法化された中核犯罪と一般刑法上の通常犯罪との適用関係に関する検討を行った。両者の適用関係をめぐる議論は,中核犯罪を国内法化したマクシマリスト諸国固有の問題ではあるものの,日本などのミニマリスト諸国においても,ICC規程の実体法的側面の国内法化を行う際に看過しえない論点である。
 第2に,同事件は,ミニマリスト諸国が一般刑法に基づいて戦争犯罪(ICC規程8条)該当行為の訴追・処罰を行う際にも問題となる,重要な論点を提起している。すなわち,同事件について刑法典上の犯罪の成否が検討された際に俎上に載せられた,国際法上の合法性に基づく刑法上の違法性阻却(正当化)の問題である。この問題は,ミニマリスト諸国においても,一般刑法による対応が予定されている以上,国際法上合法な戦闘行為を繰り広げた戦闘員を訴追・処罰の対象から除外するための法理は必要不可欠である。
 本稿における検討を通じて,ドイツでは,戦争犯罪に該当するおそれのある行為をめぐっては,一般刑法上の犯罪の成否を決する際に,国際人道法の規範が参照され,主に,構成要件に該当する行為の正当化(違法性阻却)が図られているということが明らかとなった。
 私見によれば,日本は,刑法の適用を(広く)確保した上で,国際法上の合法性が認められる場合には,構成要件該当性ないし違法性を阻却することによって解決を図るのが望ましいと考える。その際,ドイツの議論が日本にとって参考になると思われるが,両国の間にはいくつかの相違点が見受けられるため,検討を行う際には,それらを踏まえた上で議論する必要がある。

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