博士課程院生研究紹介

戦後日本政治における憲法論議とジャーナリズム
高木 智章

本研究テーマに関する発表

発表者氏名
(著者・講演者)
発表課題名
(著書名・論文名・演題)
発表学術誌名
(著書発行所・講演学会)
学術誌発行年月
(著書発行年月・講演年月)
高木 智章 『憲法記念日の言説分析』 日本マスコミュニケーション学会 2013年10月26日

研究成果実績の概要

 本研究は戦後日本政治おけるジャーナリズム、具体的な事例としてはジャーナリズムにおける憲法論議がどのように展開されてきたのかという点について、それを通史的に分析することを目的にしている。
 周知の通り、憲法とその平和主義をめぐる論争は、戦後政治において重大な意味を持ち続けてきた。2000年代以降においても、2003年のイラク戦争における自衛隊の海外派遣論議、第2次安倍政権による96条改正の問題、さらには憲法解釈による集団的自衛権の行使の容認発言等、憲法をめぐる議論はしばしば政治的な争点となっている。本研究の意義は、そうした「現代」における憲法論議の動向を観点に入れながら、同時に憲法論議の「歴史的」な流れを、それが展開されたそれぞれの時代背景を把握しながら分析する点に求められる。日本国憲法は先ず以てその制定過程で占領軍が重大な関与を果たしたことによって、又それと同時に、憲法に規定された理念が崇高なものであったということによって、保守・革新勢力によって多様に意味づけられてきた歴史的経緯がある。無論、その意味づけの成されようは、戦後日本政治において歴史的に完全に一貫したものであったとは必ずしも言えず、時代ごとの国内・国外情勢によって、ある価値は継承し、ある価値は変容し、またある価値は新たに付け足されながら展開されたものであった。本研究においては、新聞・論壇誌といったジャーナリズムの憲法に関する言論のみならず、政治家や知識人の言論をも分析対象に入れて、戦後日本政治において日本国憲法がいかに意味づけられてきたのかを分析し、それを通じて戦後日本政治の外交・安全保障やナショナリズムのあり様の全体を捉えることを最終的な目的にしている。
 任期期間の研究の成果としては、2013年10月26日に行われた日本マスコミュニケーション学会における研究発表があげられる。その際には、『憲法記念日における言説分析』と題した発表論文を作成した。この論文では、主に朝日新聞・読売新聞の憲法記念日(5月3日)における憲法の言論を社説の分析を中心に、1947年から現代に至るまで通史的に見ていき、新聞メディアがいかに憲法を意味づけその主張を展開してきたのかを分析した。その際には、言論空間全体から新聞メディアの言論・その意味づけの特性を見るために、『世界』や『中央公論』、『諸君!』等の論壇誌や知識人・政治家によって展開された憲法に関する言論も同時に分析対象に加えた。この論文において得られた知見は、以下のように言える。すなわち第一の知見は、①朝日新聞と読売新聞は憲法の論調がそれぞれ「護憲派」「改憲派」であるとして現代では一般的に認識されているが、両紙の言論を通史的に見ると、少なくとも40年代・50年代後半・60〜80年代においては両紙とも護憲的な言論の掲載が多かったという点である。これは読売が国際情勢の変化に応じて現実主義的に憲法の意味づけを変化させ、そのもとで護憲や改憲のスタンスを決定していたためであるが、論文ではその点を解明することが出来たといえる。そして第二の知見は、②新聞メディアの憲法に関する言論を、論壇誌や政治家・知識人の言論を含めた言論空間全体のなかで見た時、新聞メディアは現実の根本的な変革が要求されるような主張を展開することを避け、社会に広く受け容れられる言論を展開し、「主流」的な見解の形成やその反映に寄与していた側面があるという点である。すなわち、主に改憲派が主張してきた「押し付け憲法論」に基づく改憲の提言や、反対に護憲派が憲法の平和主義を徹底した形で意味づけ提示した「非武装中立論」、などの幾分「ラディカル」な見解は、現実の政治状況を踏まえながら展開される新聞メディアの言論においては排除され、それゆえ言論空間全体からみた新聞メディアの憲法の言論は、一定の幅を持ちつつも基本的には憲法の理念を尊重し、時の政治状況に合わせて現実主義的に展開される特性があるという点を発見したのである。
 以上の研究発表論文でジャーナリズム、特に新聞メディアの憲法に関する言論がどのように歴史的に展開されてきたのかを、ある程度把握することが可能となったが、憲法の意味づけの変化がどのような時代背景があったがゆえにそのような形になったのかという点に関する、より詳細な分析をするには至らなかった。それは、分析期間を長く取り過ぎたために引き起こされた問題であった。そこで、今後の研究としては学会における発表の不備を埋めるべく、分析する時期を絞って展開することし、現段階ではその研究に従事している。現在分析を進めているのは、特に1940〜1950年代の憲法論議であり、この時期は、ちょうど「占領政策による民主化」→「講和独立&東アジア情勢の緊張による逆コース」という大きな歴史的な流れのもとに戦後の日本政治が置かれていた時期である。そうした中で、40年代においては憲法の好意的な受け入れが支配的であったのが、いかにして50年代においては憲法改正論議が活発化していくことになったのかという点を、ジャーナリズム・政治家・知識人の言論を通じて明らかにしていくことを目標としている。40、50年代は、いま現在の日本が置かれている政治状況(例えば、東アジア情勢の緊張・改憲論の再燃、等)と似た点が多くあるということからみても、そのより詳細な分析をする意義の認められる領域であると考えられ、ひとつの成果を得るべく試みている段階である。

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