博士課程院生研究紹介

政治的有効性感覚における理論と実証 ―国際比較調査を用いて―
金 兌希

本研究テーマに関する発表

発表者氏名
(著者・講演者)
発表課題名
(著書名・論文名・演題)
発表学術誌名
(著書発行所・講演学会)
学術誌発行年月
(著書発行年月・講演年月)
Kim, Taehee “The Democratic System and Political Efficacy: An Analysis of CSES Data.” Japanese Journal of Electoral Studies (『選挙研究』) 2013年12月
金兌希 「日本における政治的有効性感覚指標の再検討―指標の妥当性と政治参加への影響力の観点から―」 『法学政治学論究』100号 2014年3月

研究成果実績の概要

 民主主義とは「市民による自らの統治」と考えることができる。その定義からわかるように、民主主義制度を正しく機能させるためには、市民による自発的な政治参加が必要である。それでは、市民は自ら統治を行うという民主主義を実感し、能動的な政治参加を行っているのだろうか。市民が民主主義を実感しているか否かという意識の測定を試みているのが「政治的有効性感覚(Political Efficacy)」である。政治的有効性感覚とは、市民自身が政治的事柄を理解でき、かつ自らの行動が政治的指導者と政策に影響を与えることができるという個人の信念である。この概念は1950年代に米国で提唱されて以来、民主主義システムを支える「善き市民」を反映するものとして、市民意識の指標の中で理論的に最も重要視されてきた。さらに半世紀もの間、どのような要因が政治的有効性感覚を高め、また政治参加につながるのか、多くの国で研究が行われてきた。
 しかしながら、政治的有効性感覚の研究は、その重要性とは裏腹に多くの課題が残されている。まず、そもそも政治的有効性感覚とは何なのか、そしてどのように測定することができるのか、という研究の基礎となる部分において議論の整理が明確になされてこなかった。さらに、どのような要因が政治的有効性感覚を高めることができるのかという問題においても、各国の政治文化を根拠とした主張が多く、国レベルの政治システムなどの外的要因が厳密に考慮されてきたとは言い難い。そこで本研究では、日本における政治的有効性感覚指標の妥当性の検証を行うと同時に(論文①:金兌希. 2014.「日本における政治的有効性感覚指標の再検討―指標の妥当性と政治参加への影響力の観点から―」『法学政治学論究』100号)、27か国の世論調査データを用いて各国の政治システムのレベルが政治的有効性感覚にどのような影響を与えているのか検証を行った(論文②:Kim, Taehee. 2013. “The Democratic System and Political Efficacy: An Analysis of CSES Data.”Japanese Journal of Electoral Studies(『選挙研究』)No.29(2).)。各論文の詳細については、以下のとおりである。
 論文①:政治的有効性感覚に関する研究においては、その指標の妥当性の問題が常に指摘されてきた。日本においても、政治的有効性感覚は、1970年代以降、重要な政治意識として多くの世論調査で継続的に取り入れられてきたが、内的、外的の区別という概念の発展にもかかわらず、有効性感覚指標の妥当性に関する研究はあまり行われていない。また、日本で用いられている有効性感覚指標は、欧米とは一部異なる指標を用いているため、欧米の先行研究をそのまま適応することも困難である。さらに、各研究で使用されている有効性感覚の項目も研究者によって異なっているため、研究間の比較が難しいだけでなく、各研究の違いが、有効性感覚の影響力の違いなのか、それとも異なった指標の組み合わせによる違いなのか、現状では明らかにすることが難しい。そこで、本論文では、日本における政治的有効性感覚指標の妥当性の検証を行った。その結果、以下のことが明らかになった。「投票意味なし」項目は有効性感覚の項目としては使われるべきではなく、内的には「政治複雑」と「政府左右」、そして外的には「議員当選後」と「政治家」項目が適切である。さらに、各項目によって、参加に対する影響力に違いが生じるが、内的と外的を合成した指標を使用する場合、相互の影響力を相殺してしまう可能性があることも指摘した。
 論文②:政治的有効性感覚の特徴の一つは、各国によって大きな高低差がみられることである。先行研究においては、選挙制度が市民と政治的領域を繋ぐ最も重要な経路であることから、政治的有効性感覚に強い影響力をもたらすことが示されてきた。しかし、市民と政治的領域を繋ぐ経路は選挙制度だけではなく、政治領域の大きさや(分権の程度)、どれだけ正常に機能しているか(汚職の程度)、という点にも影響されると考えられる。しかし、これまでの先行研究では、選挙制度以外に影響を与える要素について包括的な分析があまりなされて来なかった。そこで本稿では、各国の選挙時の市民意識を網羅する国際比較データと、各国のアグリゲート・データを用いて、選挙制度、分権、そして汚職の程度が政治的有効性感覚にどのような影響を与えているのか、27か国の国際比較分析を行った。本稿では、次のことが明らかになった。まず、選挙制度の反比例度(disproportionality)は市民の有効性感覚を阻害する。また、その効果は、各国の小政党支持者により大きい。さらに、比例代表制におけるジレンマも明らかになった。比例代表選挙の結果である議会内政党数の増加は有効性感覚を高める半面、同じく比例代表選挙の結果として成立しやすい連立政党数の増加は有効性感覚を低下させる可能性がある。また、汚職の程度は、通常は常に正の関係がある有効性感覚と教育水準を逆の関係にしてしまう可能性があることも明らかになった。先行研究においては、教育水準が高い市民がより高い有効性感覚を示すことはほぼ一般化された因果関係として考えられてきたが、汚職の程度が高い国では教育水準が高いほど有効性感覚が低くなってしまう可能性があることが示された。本研究では、以上の結果から、以下のような政策的含意を提示した。まず、選挙制度の比例度を高めることは、国内の少数政党支持者の有効性感覚を向上させることができる。しかし、比例代表制では、連立政権内の政党がどのように妥協に至ったのかを明らかにし透明性を確保するなど、ジレンマを回避する方策が考えられていくべきであろう。また、汚職の程度が高いほど、教育水準が高い有権者の有効性感覚が下がるという結果から、有権者の有効性感覚を高めるためには、国家の透明性の確保が重要である。

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