博士課程院生研究紹介

韓国における養子法 ―法の変遷と家族観、日本法との比較研究を含めて―
田中 佑季

本研究テーマに関する発表

発表者氏名
(著者・講演者)
発表課題名
(著書名・論文名・演題)
発表学術誌名
(著書発行所・講演学会)
学術誌発行年月
(著書発行年月・講演年月)
田中佑季 韓国における養子法と家族観
―入養特例法を中心に―
慶應義塾大学法学政治学論究99号 2013年12月

研究成果実績の概要

1.研究の概要
 韓国における養子制度は、現行法上、民法に規定された普通養子及び親養子(断絶・許可型)、「入養特例法」(以下「特例法」と言う。「入養」は養子縁組を示す(以下同)。)による養子の3つの類型に分けることができる。後者の特例法は、民法とは別に規定された養子制度である。韓国養子法において研究すべき課題は多いが(親養子制度についてなど。今後の研究課題とする。)、民法以外にも養子制度を置くことは韓国養子法の特徴であると言え、まずこの「入養特例法」に関する研究を深めていくこととした。特例法研究にあたり、その前提としてまず、報告者は特例法の条文翻訳を行った(犬伏由子監修=田中佑季訳「韓国『入養特例法』(法律第11007号、2011年8月4日全部改正、2012年8月5日施行)(翻訳)」慶應義塾大学 法学政治学論究86巻5号(2013年5月)132頁以下掲載(特例法の概要は以下2参照))。この全条文翻訳を土台とし、特例法に関する変遷や改正、利用実態等の検討を通じ、養子法と家族観のかかわりについて考察を加えた。

2.「入養特例法」概要
 特例法は、1976年に制定され、その後幾度の改正を経て現行法へと全部改正された(2011年8月4日、2012年8月5日施行)。18歳未満の要保護児童を対象とし、養子となる者の権益と福祉増進を図ることを目的(1条)とする法で、全45条及び附則から成る。2011年全部改正の主要内容は、韓国は「孤児輸出国」と批判を浴びるほど国際養子の多さは長年社会問題のひとつとなっていたため、本法では国内入養優先推進制を導入し、国外入養減少の努力規定を設けたこと(7条・8条)、国内入養・国外入養ともに家庭法院による許可制を導入したこと(11条・18条・19条)、養子は民法上の親養子と同一の地位を得ること(14条)などが挙げられる。

3.論文「韓国における養子法と家族観―特例法を中心に」
(1)概要 本稿では、特例法の変遷及び改正状況を当時の国会資料等を基に詳細に論じ、その変遷過程において、韓国の伝統的家族観・家族制度と言われる「父系血統主義」及び「姓不変の原則」が特例法にどのような影響を与えてきたかを検討した。また、統計資料を引用して特例法による養子利用の実態を明らかにし、問題点についても整理し、2011年の全部改正に至った理由等を論じた。その上で、全部改正法施行後の特例法による養子利用、養子制度と家族観との関係、そして若干ではあるが日本法への示唆について考察を加えた。
(2)内容 韓国の伝統的家族は同一の姓と本による「父系血統主義」に立脚する。姓と本は自身の所属する血統を示し、姓の変更は血統の変更を示すことから「姓不変の原則」が生じた。これは家族法の原則として養子規定にも影響を与え、民法上の養子は養親の姓と本を継ぐことはできなかった(現行法では変更は可能)。これにより虚偽の出生の届出が横行した。特例法は1961年制定の「孤児入養特例法」に始まったが、これは外国人による国外入養のための法であった。これにより国外入養児童数が急増し社会問題となった。そのため1976年に同法を廃止し、新たに国内入養推進のための「入養特例法」が制定された。同法では養親が望めば養子の姓と本を変更できる旨規定され、当時の民法とは異なり、特例法上の姓不変の原則は緩和されたと言える。しかし、それでも虚偽の出生の届出はなくならず、国内入養の促進が進まないなど、特例法はその後幾度の改正を経たものの問題点を克服することができなかった。特に、長年国内入養を国外入養数が上回っており、国内入養は十分に活性化しなかった背景のひとつには、血縁を伝統的に重視する家族観があったと考えられる。
 2011年全部改正法施行後まだ間もないため、現段階で施行後の実態を調査することは困難であるが、法院の許可制導入による手続等の複雑化で利用は大幅に減少したと言われる。今後の検討が必要である。また、人々の養子に対する血統重視意識は依然強く残っているものの、若年層の意識には徐々に変化が見られ、社会状況や法改正等により、今後意識面においても変化が見られると推測する。日本法への示唆として、現在日本で議論が進む養子縁組のあっせんについては、韓国特例法にあっせん機関に関する規定があることからひとつの参考になるのではないか。ただし、これについては詳細な検討が必要であり、今後の課題のひとつである。

4.研究の成果及び意義
 韓国における家族観は、韓国家族法研究において重要なテーマであり、養子に関する法制定や改正にも影響力を持つと言える。家族観という視点からの養子法研究は、今後の研究の前提として意味のあるものとなった。また、韓国の特例法を中心とする邦語の先行研究は数少ない。そのため、特に特例法の変遷過程等を詳細に分析したことは、特例法を理解する上で非常に有益なものと言えよう。韓国養子制度の重要な位置を占める特例法の研究は、韓国養子法を理解する上で必須であり、本研究は大変意義のあるものとなったと考えられる。
 近年、ダイナミックかつ迅速に改正が行われている韓国家族法は、我が国の学界でも大きく注目されている。我が国との比較にとどまらず、韓国の家族法及び家族観等を詳細に明らかにしていくことは、今後の両国の学術的交流に大きく寄与するものと言えよう。今後さらに研究を深めていきたい。

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