博士課程院生研究紹介

新株発行の無効原因の解釈における「取引の安全」について
堀井 拓也

研究成果実績の概要

1 研究の目的と問題意識
 大学院修士課程入学以来、会社法におけるファイナンス法制、特に会社法第二編第二章第八節の定める募集株式発行規制について研究している。修士論文は、「会社法における株式発行・自己株式処分の無効原因の研究」と題して、株式発行・自己株式処分(以下、「株式発行等」)の無効原因をめぐる問題(会社法828条1項2号3号)について包括的な研究を行った。大学院後期博士課程進学後も、修士論文の研究を基礎に、①募集株式の発行等の無効原因の解釈はどうあるべきか、および②募集株式の発行等の無効原因の問題における「取引の安全」とは何か、という2つの問題について研究を続けている。
 今年度の研究は、当初、上記②について論文を公表することを目標としていた。従来の学説・裁判例の多くは、株式発行等の無効原因について、「会社の利益」と「取引の安全」の必要性とを比較衡量した上で解釈するべきであると考えてきた(利益衡量説)。しかしながら、そもそも「取引の安全」とは何かということについては、あまり議論されてこなかった。この研究は、株式発行等無効の訴えの事案において、裁判所は当該事案の事実関係のもといかなる利益衡量を行い、結論を導いているのかということを検討することによって、従来その意味内容が不明確であった「取引の安全」という概念を明らかにしようとするものである。
 筆者はこの検討を通じて、「取引の安全」という概念は、当該事案において裁判所が望ましいと考える結論を導くための概念として用いられてきたこと、および従来の裁判例の結論を踏襲するために用いられてきた概念であると考えるようになった。その結果、株式発行等の無効原因の解釈において、「取引の安全」という概念を用いて結論を導くことに対して、疑問を持つようになった。そこで、指導教員の勧めもあり、「取引の安全」という概念に依存しない、株式発行等の無効原因の解釈論を提示することを目的に研究を行い、それを公表することを目標に再設定することとした。

2 研究成果
 以上の問題意識に基づく研究成果は、「非公開会社における募集株式の発行等の無効原因」と題する論文としてまとめた。「法学政治学論究」に掲載される予定である(2014年夏季号予定)。本論文は、会社法の非公開会社における募集株式の発行等に議論の対象を限定し、その無効原因について検討するものである。
 議論の発端は、非公開会社における募集事項決定に係る株主総会決議の欠缺(以下、「株主総会決議の欠缺」)が、株式発行の無効原因になると判断した最判平成24年4月24日である。学説は、無効原因になるとする結論は妥当であると評価しているが、その多くは「株主の持株比率を維持する必要がある」ということを強調するばかりである。株主総会決議の欠缺が問題であるにもかかわらず、募集株式発行権限が株主総会に帰属することの法的意義の検討は不十分である。また、それ以外の瑕疵の無効原因該当性はほとんど検討されていない。そこで、株主総会決議の欠缺はなぜ無効原因となるのか、およびそれ以外の瑕疵の無効原因該当性について検討した。本論文の内容は、以下の通りである。
 本論文は初めに、非公開会社の募集株式発行規制の構造を明らかにする。学説には、非公開会社における株主総会決議の欠缺を、会社法制定前の譲渡制限株式会社における株主の新株引受権の無視と同視する見解があるが、それは正確な理解ではなく、募集株式発行権限が株主総会に帰属する非公開会社では、株主総会決議の欠缺自体が問題であることを提示する。そして、非公開会社における無効原因をめぐる問題は、当該決議の法的意義から議論することが重要であることを論じる。
 次に、株主総会決議の欠缺はなぜ無効原因となるのかについて検討する。私見は、株主総会決議は募集株式の発行等という法律行為の中核的意思表示であるから、それを欠く場合には無効原因があるという立場をとる。学説には、「取引の安全」の保護が小さいことから無効原因になるとする立場、募集事項の公示義務がないことから無効原因になるとする立場、救済手段の妥当性という観点から無効原因になるとする立場がある。しかし、これらの説明は、発行方法の如何を問わず、非公開会社では株主総会に募集株式発行権限が帰属することの法的意義が曖昧なものになるから、無効原因を導く理由として適切でないことを論じる。
 最後に、株主総会決議の欠缺以外の瑕疵の無効原因該当性について検討する。詳細は本論文に譲るが、検討によれば、非公開会社の募集株式発行法制のもと問題となりうる瑕疵の多くは、株主総会決議の欠缺の問題として把握されることがわかる。また、非公開会社では「株主の持株比率を維持する必要がある」と考えられているが、不公正発行の問題は生じず、それは株主総会で募集事項を決定するという意味にすぎないことを示す。

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